4月中旬から5月上旬にかけて、京都府宇治市にある世界遺産・平等院では見事な藤の花が咲き誇ります。その樹齢はなんと約280年。その優雅で美しい姿に、多くの人々が足を運び晩春の風物詩を楽しんでいます。

さて、突然ですが皆さん、浄土真宗本願寺派の紋はどのようなものかご存知でしょうか?
実はこの藤の花が宗紋の1つのモチーフとして使われています。

今回は、平等院で見頃を迎えている藤の花と、「下がり藤」の紋について考えたことを綴ってみたいと思います。

浄土真宗と下がり藤の紋

浄土真宗の紋、下り藤
(浄土真宗本願寺派公式Webサイトより引用 URL:https://www.hongwanji.or.jp/

日本の神社仏閣には、その宗派や歴史的なゆかりにより様々な紋章が掲げられています。なかでも、この藤の花が垂れ下がって咲く様子を表す「下がり藤」の紋は、どこか品の良さや繊細さが感じられますよね。

もともとは、親鸞聖人が平安時代の貴族・藤原氏の流れを汲む日野家の生まれであることに由来しているそうです。東京都にある西本願寺直轄の寺院・築地本願寺の本堂にも、立派な下がり藤の紋が掲げられています。

築地本願寺の本堂に掲げられている下がり藤の紋

古来より日本人に愛された藤の花

藤の花は、日本古来の美意識の中で、繊細さや優雅な趣を象徴する存在として捉えられてきました。日本最古の歌集である「万葉集」にも、藤の花を詠んだ歌が28首あると言われています。例えばこのようなものです。

我が宿の 時じき藤の めづらしく 今も見てしか 妹が笑まひを
(わがやどの ときじきふぢの めづらしく いまもみてしか いもがゑまひを)
作者:大伴家持

庭に咲いた季節外れの藤を眺めていたら愛する人の笑顔を見たくなった、というなんともロマンチックな歌。この歌では、藤の花が愛しい女性を思い起こさせる存在として優美に描かれています。

また、「源氏物語」でも藤の花は高貴で美しい女性の象徴として描かれています。主人公・光源氏の初恋の相手「藤壺の宮」は、庭に咲く美しい藤の花になぞらえてつけられている作中での呼称です。

平等院が建つ宇治の地が源氏物語の舞台と言われていることを合わせて考えると、ますます趣が感じられますね。

藤の花から感じられる謙虚さや品格

親鸞聖人が生まれた日野誕生院の藤の傍にあった俳句

ここで、藤の花に関する歌を1つ紹介させてください。

京都市伏見区にある、親鸞聖人の生誕の地「日野誕生院」。その門前には献木された藤の花があります。私は、その脇に控えめに立つ小さな看板と、それに記された俳句が目に留まりました。その看板には、このような歌が記されていました。

うつし世は 拝んで渡れと ふじのはな

私は、この俳句を詠んで、はっとしたと言いますか、何か点と点が線でつながるような実感がありました。

藤の花から感じられる品格と繊細さ。成長するほどに頭(こうべ)を垂れる姿。静かに拝むような佇まい。これらは、まさに浄土真宗の謙虚な姿勢を表しているようだなと。

藤の花や「下がり藤」の紋が持つ趣は、謙虚さ・品格・機微を知る心など、戸惑いの多い日常を迷わずに過ごすための、たおやかな姿勢を伝えているような、そんな気がしたのでした。

藤の花が見頃はゴールデンウィークまで

晩春の風物詩・藤の花。日本古来から愛されてきた藤の花は、その美しさや風雅な趣で私たちを魅了してくれます。

平等院の藤の花は、ゴールデンウィークまでが見頃です。ぜひこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

▼平等院の開花情報はこちら▼
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平等院鳳凰堂を背景に美しく咲く藤の花

平等院にて、藤の花が美しく咲き誇る藤棚

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ライター:間宮まさかず

京都市在住のWebライター。
子育てにまつわるエピソードや、京都の町の魅力などを綴っていきたいと思っています。