ばあちゃんたちのいるところ・その8 けいこさんの格言
けいこさんは大正生まれで、私がデイサービスで出会った当時90才でした。
18才のころ、当時東京で設立したばかりの女子大学の2期生として入学されたそうです。
女性の大学進学がとても珍しかった時代。そこで彼女は数学を学び、その後は教師になり、ご結婚され家庭に入り、お茶やお花の先生として活躍されたそうです。
晩年になり日常生活にちょっとした物忘れが増えてきたこともありデイサービスに来ることになりましたが、デイサービスでも、職員にお茶のお作法を教えてくれたり、個性的な利用者さんどうしのいざこざをうまくまとめたりと存在感を発揮していました。
私はそんなけいこさんの静かにたんたんとした雰囲気がとても好きでした。
戦争も、戦後のもののない時代も経験され、その後も波瀾万丈で、私だったらすぐに挫けてしまいそうな出来事が次々と起こります。それでも、苦労した事実を誇張もせずありのままに、人生そんなこともあった。と語る彼女の瞳はとても穏やか。
知的探究心や好奇心は90才になっても健在で、「おもしろそうね、やってみましょう」と言うときの瞳は少女のようにきらきらとしていました。
ときには悲しみにとっぷりと浸るもよし。
でも嬉しいとき、笑えるときは
たくさん謳歌して広げてふくらませなさい。
悲しみは無理にひろげずに、
そっとそのままの形で胸に秘め、
ああ人生はかくも悲しいものかと静かにじっと味わいなさい。
その悲しみはあなたの人生の深みになり、
ひとの悲しみにも寄り添えるし
また再びうまれる喜びは 余計に心に響くようになるわよ。
という、けいこさんの格言。あの頃よりも人生の経験を重ねたいまも、
そうだなあ、そのとおりだなあと心に響くことばです。
それでは、また次回。お読みいただきありがとうございました。
この漫画の書き手:
喰代彩 (ほおじろあや)
横浜市出身、善了寺のデイサービス「還る家ともに」で介護士として働いていました。
現在は香川県・小豆島にIターン移住して4年目、二児を育てながら島の暮らしや
善了寺デイサービスの思い出について書いています。