こんにちは。

私は2019年4月から瀬戸内海の離島、小豆島で暮らしています。夫と子ども2人と横浜から移住してきました。ここでは島暮らしの日々をお届けします。

前回のエンジェルロードに続き、今回の「小豆島てくてくさんぽ」では「中山千枚田」をご紹介します。

 

 

夏の絶景、「中山千枚田」

小豆島というと海のイメージが強いかもしれませんが、それ以外にも見所がたくさんあります。

小豆島の玄関口である土庄港から車で15分ほど走ったところに、中山という集落があり、棚田の風景が一面に広がっています。

棚田(たなだ)とは、傾斜地にある田んぼのこと。小さめの高さの違う田んぼが連なり棚のように見えることから名付けられています。

そのなかでも棚田がたくさん見下ろせるものを「千枚田(せんまいだ)」と言います。

中山千枚田は、「日本の棚田百選」にも選ばれた約800枚の大小の田んぼがあります。

これらの田んぼは、南北町時代から江戸時代中期にかけて造られたといわれています。

300年以上続いてきた棚田は、次の世代へ命をつないでいくための生命の源。

傾斜地での田植え、稲刈り作業は、作業量も膨大だと思います。この風景の美しさは今日まで脈々と続けられてきた、関わる方々の苦労の結晶でもあるということがひしひしと伝わってきます。

近くに湯舟山という山があり、そこからの湧き水がさらさらと田んぼに流れ込んでいます。

千枚田を散策していると、常に湧き水の清々しい音がしています。特に青々とした稲が風に揺れる季節は、圧巻の美しさ。なにもせず、ただ近くをゆっくり散策するだけでも、別世界に紛れ込んでしまったかのような、今がいつの時代なのかわからなくなるような、不思議な気持ちになります。

 

 

 

 

3年おきに開催されている瀬戸内国際芸術祭のアート作品も棚田のそばに作られています。緻密に組まれた竹のオブジェが、この空間をいっそう魅力的なものへと引き立てています。

 

中山農村歌舞伎

中山千枚田には、農村歌舞伎の舞台もあります。

今から約300年前(江戸中期)、小豆島の人々はお伊勢参りに出掛けていました。

荒天で船が出ず大阪で船待ちしていた島人たちが、上方歌舞伎の華やかな世界に触れ、その絵馬や衣装を持ち帰ったのが始まりとされています。

中山出身のばあちゃんに話を聞くと、「親が歌舞伎に毎年出とったからね、私も子役で出とった、毎晩練習があるから大変よ。わりご弁当がたのしみでがんばったなぁ」と懐かしそうに教えてくれました。

わりご弁当とは、農村歌舞伎で振る舞われる小豆島の郷土料理。大きな木箱に一人ぶんの弁当がいくつも入ります。酢飯、卵焼き、お煮しめを朝から皆で作っていれるのだそうです。

農村歌舞伎は、今でも毎年秋に行われています。外国からの観光客にも好評だと聞いています。

 

 

7月はじめ、夕暮れどきに空が変化する時間帯に行ってみました。

青空がゆっくりと紫色になり、日が沈んでからのマジックアワーには、

虹色にかがやく空がそのまま田んぼのみずにうつりこみ、幻想的な景色でした。

 

夏の伝統行事、「虫送り」

7月には、虫送りと呼ばれる伝統行事もあります。先日、初めて参加しました。

 

”虫送りは、約300年前から伝わる中山地区の伝統行事で、半夏生(夏至から11日目)の日に火手(ほて)と呼ばれる竹の松明を田にかざしながら畦道を歩き、害虫を退治して豊作を願うものです。

中山地区ではここ数年間途絶えていましたが、映画「八日目の蝉」で重要なシーンとして「虫送り」が行われたことをきっかけに復活しました。

「とーもせ、灯せ。」の声をかけながら、火手を持ち、青々とした稲が育つ棚田の畦道を歩きます。真っ暗闇野中、列をなした火手の光がゆらゆらと揺らめきながら動いていく風景はとても幻想的です。  

主催:中山千枚田虫送り実行委員会”  (中山虫送り 小豆島観光協会hpより)

 

 

 

映画「八日目の蝉」では、物語の重要な転換点となるシーンで虫送りが出てきます。

そのときの切なくも美しい印象が強く、写真でも、まるで蛍が光るような、ひっそりとした行事のように見えていました。しかし実際参加してみると、燃え盛る炎が風にゆらめき、火手はずっしりと重く、思ったよりもずっとダイナミックでした。事前予約をすれば、観光の方でも参加可能です。

 

 

マジックアワーに輝く虹色の田んぼ、青々とした稲がゆれる夏の風景、黄金色に色づく秋の風景。

現代アートとの融合や、7月の虫送り、10月の農村歌舞伎と、中山千枚田の魅力ははかり知れません。

 

小豆島の奥深い魅力のひとつ「中山千枚田」。是非お立ち寄りください。

 

 

参考:

中山千枚田

中山農村歌舞伎

中山虫送り

(以上すべて小豆島観光協会)

 

書き手・イラスト・写真 :

喰代彩 (ほおじろあや)

横浜市出身、善了寺のデイサービス「還る家ともに」で介護士として働いていました。現在は小豆島にIターン移住して四年目、二児を育てながら島の暮らしと、善了寺デイサービスの思い出について書いています。(「瀬戸内 島暮らし」、「ばあちゃんたちのいるところ」として連載中)