丸か四角か
醤油か味噌か
出汁は何でとるのか
具は何を入れるのか

さて、これはなんの話でしょうか。

 

正解は、
お正月に食べるお雑煮です。

関東と関西で違う、実家と嫁ぎ先で違うなど、お雑煮には地域やご家庭によって違いがありますね。お正月が近づくとちょっとした話題になります。
お正月が過ぎて鏡開きになると、今度はお汁粉でおもちを食べて・・・と、冬はおもちを食べる機会が増えます。昨今、年末にもちつきをするご家庭は減っているでしょうが、日本人がおもちを食べる文化は健在です。
ということで、今回は、私の大好きなおもちのお話を。

日本人にとってお餅は特別な食べ物。古来、お正月やお節句、誕生、婚礼、葬儀と、季節の行事や人生の節目に、日本人はお餅をついて食べてきた。稲の実である米は、うるち米ともち米の二種類に分けられる。そのうちのひとつ、もち米を蒸してついたのがお餅。
(中略)
年中行事や通過儀礼に欠かせないお餅には、それぞれに意味があって、名前がつけられ、お供えされ、また食べられてきたんだよ。
「にっぽんの歳時記図鑑」 平野恵理子 幻冬舎 2012

もともとおもちのルーツは、神仏に供えられる供物だったといわれています。時代が下るにつれ、貴族から武士、武士から市井の人々へと広まっていきました。その中で、お祝いごと向けから、実用的な食べ方まで様々に形を変えて、私たちの生活の中へと浸透していきました。

おもちは色々

漠然と冬におもちを食べることが多いと思っていたのですが、考えてみると、一年中いろいろな行事でおもちが使われています。

鏡餅、お雑煮 →お正月
ひし餅 → 雛祭
ぼた餅/おはぎ → お彼岸
かしわ餅、ちまき → 端午の節句
亥の子餅 → 亥の子祭

人生の節目に登場するおもちもあります。地域や親類関係によって行わない行事もあるでしょうが、見事におもち尽くしです!

鶴の子餅(紅白のお餅) → 赤ちゃん誕生の内祝い
一升餅 → お食い初め・百日祝い
落ち着き餅 → お嫁さんに食べさせる。無事に嫁ぎ先に落ち着くように。
力餅 → 出産の無事と生まれてくる子の健康を祈って。

他にも様々なもち菓子があります。狭義のおもちは、もち米を蒸してついたものを指しますが、お米以外の材料を使っていても、食感に粘り気のあるものは、「もち」と呼ばれることがありますね。

花びら餅、桜餅、草餅、わらび餅、くず餅、いも餅 など

またおもちは、食べ方によって名前を変えることもあります。
磯辺餅、安倍川餅、あんころ餅、からみ餅、ずんだ餅 などなど

改めて並べてみると、その種類の多さに驚きます。日本人の主食はお米ですが、お米以上におもちをいろんな行事に用い、食べ方を工夫してきたことがわかります。

 

おもちは心と体のごちそう

おもちは今でこそ、いつでも食べたいときに食べることができる食べ物となりましたが、つい四十年ほど前までは、そうかんたんに食べられるものではありませんでした。とくに、もち米だけでついた白もちは、特別な日にしか食べることができなかったのです。
(中略)
同じもちでも、ぼたもちなどは「となり知らず」といって、となり近所に関係なく、勝手につくることができますが、白もちは、なぜかとなり近所、親戚などと一緒につき、神仏にそなえ、となり近所に配るなどして、ともに祝い合って食べるものでした。

「おもちの大研究―日本人とおもちのおいしい関係」 笠原秀PHP研究所 2004

 

おもちがごちそうだった時代があるのです。確かに日本人が日常的に白米を食べられるようになったのは戦後のことです。ならば当然、もち米だけでついたおもちも特別だったに違いありません。

その特別な白もちを「ともに祝い合って食べる」というのがすごく素敵だなと思いました。もちつきは一人ではできません。楽しく賑やかに行われる共同作業はお祭りのようでもあります。ともに祝いあって食べることで、心も体も満たされたんだろうなと想像します。

 

おもちはお年玉

かつてのお年玉はおもちだったそうです。お供えしたおもちを下げた際、年長者が年少者に分け与えたものが起源だそうです。お正月にはお小遣いがもらえると思っている今の子どもたち。お年玉袋の中身がおもちだったら・・・。顔が目に浮かびますね。

 

 

皆さまの原風景の中に、それぞれ違った表情のおもちがあるかもしれません。師匠も走る師走も間もなく終わり、新しい年を迎えます。ゆく年くる年のぽっかり空いたひと時に、ふと、懐かしいおもちを思い出してみてください。では、よいお年を。

 

参考文献

「季節のしきたり和のおしえ」 辻川牧子 KKロングセラーズ 2018
「おもちの大研究―日本人とおもちのおいしい関係」 笠原秀 PHP研究所 2004
「にっぽんの歳時記図鑑」 平野恵理子 幻冬舎 2012