スーパーのお菓子売り場でのこと。足をどんどん踏み鳴らし、泣いて怒っている子どもを見かけました。あぁ、こういうのを地団駄を踏むっていうんだ。本当にこんな風に怒りや悔しさを表現するんだなぁ、と感心しました。

私はお芝居や漫画の中でしか見たことがありませんでした。小さな女の子ですから、知識でやっている訳ではありません。自然と身体が動いたんだと思います。怒りの感情をみごとに全身で表現していました。

 

さて、私たちは怒ることを「腹がたつ」といいます。「頭にくる」ともいいます。
腸(はらわた)が煮えくり返る、腹に据えかねる、頭に血が上るなど、似たような慣用表現もあります。どれも身体の一部が含まれますね。

実際、感情の動きには身体感覚が伴っています。

あなたの身体はどうでしょうか。
怒った時に身体の変化を感じられますか。
おなか?頭?それともまた別の部分でしょうか。

 

歴史家の立川昭二氏が著書の中で興味深い考察をしています。

怒りを表現することばが、世代間ではっきりと分かれている。
十代ならば「むかつく」、三十、四十代ならば「頭にくる」、六十代以上になると「腹がたつ」という。
(中略)
ここでまず大切なことなんですが、「腹がたつ」といういいかたは年をとった人が急にいうようになったわけではない。今、六十歳、七十歳の人たちが怒ったときは、子どもの時から「腹がたつ」といっていた。それから、三十代、四十代の人たちは、子どもの時から「頭にくる」といっていた。ところが、世代が代わって十代、二十代になると「むかつく」という。今の若い人たちが年をとっても「むかつく」というかはわかりませんが、わたしの世代は子どもの頃から「頭にくる」とか「むかつく」ということばは使わなかった。

 

世代によって怒りの表現が変わるというんですね。つまり、怒りの感情を受けとめているからだの部位が変わっているんです。同じ人でも怒りの度合いによって変わるかもしれません。

 

そしてその世代は、「腹がたつ」と本当におなかが痛くなったものです。「頭にくる」と本当に頭が痛くなった。(中略)では「むかつく」という若い人たちは、いったいどこが痛くなるんだろう。

「からだことば」立川昭二 早川書房 2000年6月

 

著者が理解不明だという「むかつく」ということば。私はその言葉で育った世代です。私には呼吸器の浅いところ、気管支とか肺の上部が膨らむ体感があります。「むかつく」時は、痛くなるより早く、不快感くらいで身体から出していると思います。感情のため込み方にも世代間ギャップがあるのではないでしょうか。

あなたは「腹がたつ」?「頭にくる」?それとも「むかつく」ですか?

 

 

ちなみに、地団駄を踏むの「地団駄」は、「地踏鞴(じだたら)」が変化した言葉。昔の金属精製の現場で使われていた踏み込み式の大型送風器が「踏鞴(たたら)」です。
ジブリの映画「もののけ姫」に「たたら場」というシーンがあります。そこで火を強くするために踏んでいた装置が「踏鞴(たたら)」です。激しく地面を踏み鳴らす様子が、踏鞴を踏む姿に似ていることから転じてできた表現だそうですよ。