古来より、季節に寄り添いながら暮らしてきた日本人。自然を五感で受け止め、花鳥風月を愛でながら、それぞれの季節を楽しんできました。今回は昔ながらの暦を追いながら、万物が輝く春の二十四節気とはどのようなものなのか、見ていきましょう。

1年の始まりを告げる「立春」

「春の気たつを以て也」と暦便覧に記されている「立春」。二十四節気の1番目で、新暦では2月4日ごろにあたります。旧暦では立春のころにお正月がめぐってきたので、立春は春の始まりであると同時に、1年の始まりでもありました。

春の光を感じる「立春」のころ

新しい1年を迎える立春の早朝、禅寺では「その1年がいい年であるように」との願いを込めて、『立春大吉』の白い札を入り口に貼る習慣があります。俳人・高浜虚子はその光景を見て、「雨の中に立春大吉の光あり」と一句。降る雨はまだ冷たく、昨日と変わらない今日の厳しい寒さ。でも、『立春大吉』の文字にはどこか春の光が感じられ、新しい季節の到来をしみじみと感じるころです。

雪が溶けて、大地が動き始める「啓蟄」へ

立春の後に続くのは、2月19日ごろの「雨水」。雪が雨に替わり、深く積もった雪が溶け始めます。俳人・小林一茶が詠った「雪とけて村いっぱいの子どもかな」には、子どもたちが寒いながらも、春の訪れに心躍らせる情景がありありと伝わってくるよう。

とはいえ、本格的な春の訪れにはまだ遠く、大雪が降ったりすることも。三寒四温を繰り返しながら、ゆっくりと春に向かい、3月6日ごろに「啓蟄」を迎えます。小林一茶の俳句に「大蛇や恐れながらと穴を出る」とあるように、冬眠していた蛇や蛙が暖かさに誘われて冬眠から覚め、地上に姿を見せるころです。

自然をたたえ、生き物をいつくしむ「春分」

「啓蟄」を過ぎると、3月21日ごろに「春分」がやってきます。 暦便覧には「日天の中を行て昼夜等分の時なり」 とあり、昼夜の長さがほぼ同じ時期。この後は昼の時間がどんどん長くなっていきます。

暑さ寒さも彼岸まで

春分の日を中日として前後3日間を合わせた7日間が春の彼岸。「暑さ寒さも彼岸まで」と言われ、この日を境に寒さも峠を越して温和に。与謝蕪村の「春の海ひねもすのたりのたりかな」がしっくりくる季節で、詠めば春のうららかな陽気とまどろむような海の情景がたちまち現れます。

お花見シーズン到来!「清明」と「穀雨」と続く

「春分」の後の「清明」は4月5日ごろ。すべてのものが清らかで明るく、咲き誇る花、鳥のさえずり、青く澄んだ空、爽やかな風に包まれます。ちょうど各地でお花見シーズンを迎えます。続く「穀雨」は4月20日ごろで、農業を営む人はこの時期に種まきをすると、植物の成長に欠かせない雨に恵まれるといわれています。

「花より団子」の花見が広まったのは江戸時代

春の「清明」のころ、ソメイヨシノの開花に合わせて全国各地で楽しまれるお花見。日本を代表する行楽行事ですが、現在のような酒を酌み交わしながらお花見するスタイルは、江戸時代に定着しました。それ以前の花見とは、高貴な位の人たちが花を眺めながら開いていた宴だったのです。八代将軍の徳川吉宗が隅田川の桜堤、王子の飛鳥山、品川の御殿山などに桜を植えさせ、江戸には桜の名所があちこちに登場しました。

さらに、暮らしの達人である江戸っ子にかかれば、花見も「花より団子」に一転! 弁当や団子を持ってこぞって花見に出かけ、春の行楽行事を存分に謳歌していました。ちなみに、日本の桜の8割を占めるソメイヨシノは江戸時代末期、観賞用に作りだされた品種だそうです。出会いを求めておめかしして出かける女性、そして桜と遊女の“華”であふれる墨田堤へと繰り出す男性??。江戸時代の花見のにぎやかさを想像してみると、こちらまでなんだかウキウキしてきます。

季節を感じる心を大切に

二十四節気からは、花見のほかにも、梅見や潮干狩りなどで春を楽しんでいた江戸っ子たちの様子が伝わってきます。みなさんも、自然から暦や季節感を感じるスローな生活を送ってみてはいかがでしょうか。

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