四季に恵まれた日本には、季節を二十四の節気に分ける、昔ながらの暦があります。人々は古くから、この「二十四節気」によって季節の移ろいを体で感じ、自然と共生してきました。今回は、生活の達人だった江戸っ子の粋な暮らしぶりを交えながら、「二十四節気」のうち、夏の節気についてご紹介します。

夏の気配を感じ始める「立夏」

「夏の立つがゆへなり」と暦便覧に記されている「立夏」は、二十四節気の7番目。新暦では5月5日ごろにあたります。美しい桜が散って、暦の上では夏のはじまりです。

立夏のころには、空や木々が鮮やかな色になる

朝晩は少し肌寒いこともあって、気候の上ではまだ夏を感じるには至らないことも。とはいえ、自然界を見渡してみると、空や木々が次第に原色を帯びてくる頃。俳人の高浜虚子を祖父に持つ稲畑汀子の「原色にだんだん近く夏に入る」という句にあるように、夏の気配がなんとなく感じられるものです。折しも世間はゴールデンウィーク、日中のさわやかな気候はお出かけにも最適です。

立夏の後には「小満」や「芒種」

立夏の後はだんだんと陽気がよくなり、5月21日ごろには草木などが次第に生い茂ってくる「小満」、6月6日ごろには「芒種」と続きます。このころの農家は親戚や隣家の人手も借りて、稲や麦の植えつけに大忙し。節気という暦のとらえ方が薄れつつある現代でも、芒種のころに農作物の植えつけを行う習わしが息づいています。

一年で最も昼が長い「夏至」

芒種が過ぎると、6月21日ごろには、一年のなかで日中が最も長く、夜が最も短い「夏至」がやって来ます。いよいよ本格的な夏の始まりです。

夏至を境に夏の盛りへとむかう

夏至は、北半球では一年のなかで最も昼が長い日です。冬至の日と比べると、北海道で約6時間半、東京では約4時間40分も昼が長くなります。さきほど紹介した高浜虚子にも「夏至今日と思ひつつ書を閉ぢにけり」という有名な句があります。

一年で最も暑い「大暑」には「打ち水」

夏至が終わると本格的な夏を迎え、7月7日ごろに梅雨が明けて本格的な暑さが始まる「小暑」、7月23日ごろに一年中で最も暑さが極まる「大暑」を迎えます。

江戸時代の俳諧師の宝井其角に「水うてや蝉も雀もぬるる程」という句がありますが、当時の俳句や浮世絵にはよく「打ち水」が登場します。扇風機もエアコンもなかった江戸時代、たらいの湯で手軽に汗を流す「行水」と並んで、涼しさを得るポピュラーな手段だったよう。いまでも「大暑」の日には、道路や庭に水をまいて土埃を防いだり、涼を得たりする「打ち水」のイベントが全国各地で開かれています。

江戸時代の粋な夏の過ごし方

「夏」をキーワードに、江戸時代の歳時記、そして各地名所や特産品をイラスト付きで紹介した名所図会をたどってみると、生活の達人だった江戸っ子のなんとも粋で、風流な暮らしぶりが見えてきます。

すだれやうちわで涼しい生活

将軍や大名などの高貴な身分の人々の間で、主に目隠しのために用いられていたすだれ。江戸っ子にかかれば、実用的な日よけとして大活躍していました。威厳を正すために顔を隠していたうちわも同様、パタパタと仰いで手軽に涼を得る道具に早変わり。暑さの和らぐ夕方になれば民衆はぞろぞろと外に出てきて、縁台でうちわをゆったりと仰ぎながら夕涼みを楽しんでいました。

江戸時代に大衆化された風鈴

夏の代表的な風物詩である風鈴も、この江戸時代に大衆化されたもののひとつです。風鈴は、江戸時代中期には200〜300万円もする高価なもので、お金持ちのだけの特権でした。それが江戸時代末期、研究熱心なある江戸っ子職人によってガラス製の「江戸風鈴」が生まれます。

当時の風鈴売りの様子を詠んだ「売り声もなくて買い手の数あるは、音にしられる風鈴の徳」という狂歌があります。風に乗って、チリンチリンと涼しげな音を響かせる風鈴。人々がその音に惹きつけられて買いにくるので、売り声をあげることもなかったそう。ほかにも釣り忍や朝顔、金魚などの涼し気なアイテムを日常のなかにちりばめ、夏を五感で感じながら涼を呼び寄せていました。

五感で感じる二十四節気

二十四節気には先人の知恵と文化がたくさん詰まっていて、時間の移ろいや自然との共生の大切さを呼び起こしてくれます。忙しく過ぎていく日常生活、たまにはちょっと立ち止まり、粋な江戸っ子風に夏を過ごしてみるのもいいかもしれませんね。

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