今日は善了寺のデイサービス「還る家ともに」における、三方よしを考えます。

「三方よし」とは近江商人の信条を端的に表した言葉です。「売り手よし、買い手よし、世間よし」です。「三方よし」とはどんな概念かについては別記事にまとめてあります。ご興味ある方は「近江商人の「三方よし」を学ぶ」をご参照くださいね。

 

まずは善了寺のデイサービス「還る家ともに」のご紹介です。

「還る家ともに」は、ご住職宅の一部を改築した定員10人の小規模な事業所です。利用者さんたちが生活に近い状態で過ごせるのが特長です。門扉には鍵をかけず、お一人ずつお風呂に入り、手前味噌の味噌汁と温かいご飯を皆で囲みます。台所で皿を洗う方、ソファーに足を伸ばして昼寝する方、お茶うけが欲しいと言い出す方・・・利用者さん達はまるで勝手知ったる我が家にいるかのようです。それぞれに持病があり後遺症があり要介護者と認定されてはいますが、少しの配慮があることで「普通の人」と同じように過ごすことができます。

 

ケース1:利用者さん、利用者さんのご家族、介護スタッフの三方よし

「ここは皆よく笑うでしょ。それがいい所なのよ。」
Sさんはお寺のデイサービスに週4回通う常連さんでした。彼女はご家族の都合で稀にお休みしてショートステイを利用されていました。ショートステイというのは介護施設への短期宿泊のことで、Sさんのお泊り先は病院系列の大型施設でした。
「ショートステイはどうでしたか?」という質問に対するSさんの答えが、前述の、お寺のデイサービスをどれだけ気に入っているか、という発言でした。

ここ数年、一年間撮りためた写真をアルバムにして、利用者さんのお誕生日にプレゼントしています。すると、ご家族からは感謝とともに驚かれることがあります。「こんな笑顔、家ではしません」とか「母はこんな表情するんですね」とか。介護スタッフにとっては日常の一コマに過ぎない笑顔が、ご家族からすると滅多にお目にかかれない貴重な笑顔なのです。

「還る家ともに」では本当に皆よく笑います。利用者さんも介護スタッフも。
なぜでしょう。「新しい介護」の著者三好春樹さんの「関係障害論」から言葉を借りれば次のように説明できるのかなと思います。

「関係が豊かになり、興味や関心をもってくれている人がいるというだけで、お年寄りは元気になっていきます。それくらい大きな力を目に見えない関係というのはもっている」

 

デイサービスでは、利用者さんのいい所を探す地道な積み重ねがあります。その中に彼らの目がキラリと輝く事が隠されています。それは例えば、外に出て陽射しを感じること、お散歩しながら名前も知らない花を摘むこと、大好きな歌を歌うこと、新聞紙で作った棒で遊ぶこと。本当に人それぞれですが、それを見つけた瞬間、介護スタッフは「やった!」と思います。後はスタッフも一緒になって楽しめばいいのです。

デイサービスで一日を過ごした後、利用者さんが機嫌よく帰宅すれば、ご家族の介護も楽になります。「朝送り出す時は不機嫌だったけれど、機嫌よく戻ってきてくれてよかったです」と言ってもらえると、介護スタッフも嬉しくなります。

 

ケース2:お寺、門徒さん、介護スタッフの三方よし

お寺のデイサービスならではの三方良しがあります。

最近「還る家ともに」を利用するようになったKさん。
「お寺にデイサービスがあることは知っていたけど、元気な時は足が向かなかったの。でも入退院を繰り返してね・・・。家に籠っていたら全然しゃべらないのよ。鬱っぽくなるでしょ。ここに来れて本当によかったわ。」Kさんは善了寺にお墓を持つ門徒さんです。仕事を引退されてから怪我を繰り返し、「還る家ともに」を利用することになりました。

若い時は家業が忙しく、お寺の法話会どころではなかったそうです。忙しい方ほど生前にお寺とのご縁は結びにくいもので、お葬式や法事の時だけの付き合いになりがちです。けれどお寺にデイサービスがあることで、晩年の一時を伴走させてもらうご縁をいただけます。すると門徒さんにとってお寺がぐっと身近になります。デイサービスの利用時間中に御本堂をお参りしたり、お墓参りをしたりすることもできます。

戸塚に嫁いで50年以上経つKさんは地域のことをよくご存知です。私たち介護スタッフは教えてもらうことばかりです。境内をお散歩していると「本家のお墓はここ。商店街の〇〇さんのお墓はここ」と、Kさん引率で介護スタッフが境内ツアーに参加しているようです。
お寺のデイサービスだからといって、介護スタッフがお寺や地域社会のことを勉強する機会はほとんどありません。そんな行間を門徒さんであり、デイサービスの利用者さんであるKさんは埋めてくれているのです。

お年寄りから教えてもらうこともまたデイサービスの日常です。

 

ケース3:利用者さん、ボランティアさん、介護スタッフの三方よし

2020年から始まったコロナウイルス対策が、今年の5月8日で一つの節目を迎えました。それに伴い、「還る家ともに」でもまたボランティアさんの受け入れができるようになりました。

以前は、様々なボランティアさんが出入りしていました。折り紙やちぎり絵を教えて下さる先生がいたり、食事づくりを手伝って下さる方がいたり、利用者さんと麻雀を囲むためにいらっしゃる方がいたり、茶飲み友達のようにやってくる方もおりました。介護スタッフは子や孫の世代なため、利用者さんと世代が近いというだけで強みなのです。共感できることが多いですし、共通の話題もあります。皆さん各自の持ち味を生かして利用者さんと関わってくださっていました。

ボランティアさんはそれぞれの思いがあり「還る家ともに」にやってきます。特技を活かしたかったり、人との交流を求めていたり、自分にできる事を探していたり、必ずしも介護に興味があるわけではありません。また、必ずしも仏教に信仰があるわけでもありません。そういう点で間口が広いです。

ボランティアさんたちは、「還る家ともに」に、介護スタッフにはない多様性を生み出してくれる存在です。利用者さんにとっても、介護スタッフにとっても誠にありがたいことです。

 

まとめ

「新しい介護」の著者三好春樹さんは「介護は生活づくり」「介護は関係づくり」と言います。急性期を過ぎたら「患者」ではなく「生活の主体者」です。「生活の主体者」とは要介護者をいつまでも受動的な立場に留めないという思いを込めた表現で、自らの生きる意欲が大事ということです。リハビリ室の機能訓練ではなく、生活の中で、必要に応じて実用的な工夫が生まれることもあります。

生活意欲が低下することの原因に、病気や高齢が理由で人間関係が希薄になることが挙げられます。人間関係にはいろいろと煩わしい部分もあるかもしれません。けれど、人と関わりながらしか得られない喜びや楽しさが確かにあります。

 

善了寺「還る家ともに」に多様な人々が集うことで、様々な三方よしが生まれていることが、本当に素晴らしいことだと思います。これからの「還る家ともに」を一緒につくってくれる人が増えるといいなと願っています。

 

 

参考文献
「完全図解新しい介護」大田仁史・三好春樹 講談社 2003
「関係障害論」三好春樹 雲母書房 1997