変わる教科書

「イイクニつくろう鎌倉幕府」という語呂合わせは、昭和に日本史を学んだことのある人なら一度は耳にしたことがあるに違いない。1192年、源頼朝が征夷大将軍に任命された年をもって鎌倉時代の幕開け、と覚えた。ところが、近年の教科書はそうではないらしい。

「イイハコつくろう鎌倉幕府」1185年、義経追補を名目に全国に守護・地頭を任命。支配権が東国のみならず西国にまで拡大したことをもって、武家政権としての鎌倉幕府が確立したとするのが、もっとも有力な説だそうだ。

「あなたの習った日本史はもう古い」の、著者曰く

新しい研究成果が出されると、学会では専門の研究者たちがその妥当性を討議する。多くの人に認められると、それが学会を代表する定説となる。続いてそれが教科書会社の執筆者会議の議題になり、現場の教員の代表者たちと学者たちが集まって話し合う。そこでは新しい記述案が出される。教科書会社は、これをまとめて検定前の「白表紙」という形にする。最後に文部科学省の教科調査官がそれを審査する。この一連の流れには、ひどく時間がかかる。おおよそ30年という。

 

”30年前の最新”を私たちは教科書としている。学生時代、たっひとつの正解と思って必死に覚えてきた教科書はあくまで教材。視野を広げれば、数ある正解のうちのひとつにすぎない。

変わる医学

こどもが目をかゆがるので眼科に連れていったところ、ダニ・ほこりに反応したかゆみだと説明された。

その眼科の医師曰く、
「こういう場合、2010年くらいまで部屋を掃除しなさいとか、フローリングに替えましょうとか、助言していました。でも今は言いません。アレルギーを調べていったら、こどもの頃、藁の上に寝かされていたような人には、むしろアレルギーは出ないんですよ。清潔指向の中で育てられてきた人が、外的要因に対して、過剰に反応してしまうということかもしれませんね。子どもの体質は成長過程で変わっていきますから、心配しすぎず様子をみましょう。掃除は普通にしていればいいんです。神経質にならずに。当面の対応として、かゆみ止めの目薬を出しておきますね。」

という話だった。10年前とは医療の基本方針が変わったという話に目から鱗だった。
確かに、生活の中から塵やほこりを完全に排除するのは難しい。当面の対処療法とともに、少しずつでも環境に適応できる身体づくりをする方が奏功するということだろう。

正解はひとつではない

教科書や科学でさえ新しい研究によって覆され、塗り替わる。まして人の作った常識やルールは、国や地域、宗教、属するコミュニティ、また時代によっても異なるもの。絶対の正解や正義があるわけではない。万物流転、諸行無常。もしも今、誰かの正義や正解に苦しんでいる人がいるならば、ぜひそのことを思い出してほしい。

 

「あなたの習った日本史はもう古い!」荒木肇 並木書房 2013