もみじ
秋の夕日に照る山もみじ
濃いも薄いも数ある中に
松をいろどる楓や蔦は
山のふもとの裾模様

渓(たに)の流れに散り浮くもみじ
波にゆられて離れて寄って
赤や黄色の色さまざまに
水の上にも織る錦

文部省唱歌 作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一

 

秋の歌としてお馴染みの「もみじ」。短い詩の中に鮮やかな自然の情景が織り込まれていて、移ろいゆく秋のひとこまを見事に切り抜いています。

 

紅葉した葉はすべてモミジ?

一般的にモミジというと、イロハモミジやヤマモミジなど、子どもの手のような形の葉を思い浮かべる人が多いでしょう。ですが、もともとモミジとは、特定の植物を表すことばではなく、秋になって赤や黄色に色づいた葉を表すことばでした。

紅葉と書いて「こうよう」とも「もみじ」とも読みますよね。例えば「公園の木が紅葉(こうよう)する」や「もみじ狩りに行く」という表現は、いわゆるモミジ以外の落葉広葉樹も含めた広い意味で使われます。それが次第に、秋に色づく代表的な樹木であるイロハモミジなどの名称として限定的に使われるようになりました。

 

モミジはカエデ?

モミジは、歌詞の中にも出てくるカエデと植物学上は同じ分類です。カエデもモミジもムクロジ科カエデ属です。日本にはたくさんのカエデ属があります。自生種で27種、園芸種で120種以上と言われており、その中にイロハモミジも含まれていてます。ただ、園芸の世界では、イロハモミジやヤマモミジのように葉の切れ込みが深いものをモミジ、切れ込みが浅いものをカエデとして別に考えています。

 

モミジは揉み出ずるもの?

モミジの語源は「もみず」と言われています。
「もみず」は「揉み出ずる」。紅花を揉み出し紅の染料をとるときに使われる表現です。紅花で染めた絹を「紅絹(もみ)」といいます。小袖の内側等に使われていました。
昔の人は、緑の葉が黄色や赤に変わっていく様を、秋の霜や露によって葉が洗われ、色が揉み出されているのだと考えました。語源が紅花染めなので「赤葉」ではなく「紅葉」なのです。実際は、落葉前に葉の中のクロロフィル(葉緑体の中の緑色の色素)が分解されることで葉の色が変化するのですが…。

 

もみじを味わう

作詞家の高野辰之氏の真意はわかりませんが、唱歌「もみじ」の中で表現されているモミジが、里山で色づいた様々な木々を総称していると考えると、脳裏に浮かぶ風景にさらに奥行きが加わりますね。

 

 

参考文献

「季節のしきたり和のおしえ」辻川牧子 KKロングセラーズ 2018

「日本むかしばなしのことば絵本」千葉幹夫 ナツメ社 2019