こんにちは。5月はおでかけに最適な季節ですね。

ちょうど山は新緑に彩られる時期。この、あざやかでフレッシュな緑色を見ているだけで心癒されるといった経験はありませんか?人はなぜ、みどりを眺めるだけで心がなごみ、元気が出てくるのでしょうか。

自然の風景がこころに及ぼす影響

まずは、新緑に限らず、『自然の風景を眺めることで心身が癒される』という現象について調べてみました。環境心理学という分野では、主にアメリカで1980年代から研究が重ねられ、「自然や植物は心理的な回復環境になる」ということが徐々にあきらかになっています。

そのひとつとして、カプラン夫妻の唱える「注意力回復理論」があります。

注意力回復理論とは?

注意力回復理論とは、人間の注意には、仕事や勉強など、作業に集中するときに働く「意図的注意と、自然の風景をぼーっと眺めるときのように無意識に引き寄せられる「自動的注意」の二つがあり、

意図的注意による精神的な疲労は、もうひとつの自動的注意が働くことにより回復する効果があるというものです。

  • つまり、勉強や仕事、現代で言えばスマホやSNSなどで長時間集中を必要とする作業で疲労がたまったときには、
  • 目の前の環境から意識を外の広い空間に向け、おだやかに引き付けられるような自然の景色を眺めることで異なる注意の作用が働き、集中による疲労から回復するということです。

その後のさまざまな研究から、回復環境に必要な条件は、もちろん実際に自然のなかに出掛けて一定の時間過ごすことが一番効果的ですが、

◎自然の風景写真を見る

◎窓から自然の景色を眺める

だけでも効果があることがわかっています。

 

アルリッチの有名な実験では、同じ病気の手術を受けた患者を、病室の窓から樹木が見えるグループと、建物の壁しか見えないグループに分けて経過を比較したところ、退院までの日数、不満や痛みの訴えの数、必要とされた鎮静剤の量において差が出たと報告しています。

いずれにおいても、窓から樹木の見えるグループのほうが、見えないグループよりも回復の方向に優れていたことが確認されました。(Urlich,1984)

 

 まとめ

自然環境には心とからだの疲労回復効果がある。

自然のなかをあるくことはもちろん、窓のそとの樹を眺めるだけでも、

風景写真を見るだけでもいい。

それらはストレス低減、メンタルヘルス維持、注意力向上に貢献する。

 

新緑の効果とは?

では自然が人間にもたらす癒し効果のなかで、「新緑を見る」ということの効果とは何でしょう?

緑色の癒し効果について調べたところ、CNNのWeb版にこのような記事がありました。

[Why we all need green in our lives (なぜ私たちは生活に緑を求めるのか)- Robert Jimison,2017]

このなかで、人間の目の機能についての解説がありました。

(画像はWhy we all need green in our lives- Robert Jimison,2017 より引用し、日本語訳をつけました)

 

人間の目が捉えられる光の波長は、約400nm(紫色)から700nm(赤色)のあいだです。

そのうち、緑色は550nmあたり、ちょうど見える範囲の真ん中に位置し、もっとも目に負担なく見ることができる色になります。リラックスした状態で知覚でき、神経を落ち着かせる効果もあります。

またこんな記述もありました。(以下、Google翻訳にて引用)

 

私たちの祖先は緑豊かな森林地帯に住んでいました。

彼らが食物を探し求めたとき、緑の葉を背景に色のついた果実を区別する能力は、生き残るために重要でした。

視力の進化と細部まで色を検出する能力の向上により、霊長類の祖先は、そのような違いを識別できなかった他の哺乳類よりも進化的に有利になりました。

葉、果物、野菜の色の変化は、年齢や熟度を示し、何かが有毒または腐敗している可能性があることを警告することさえあります。

ですから、私たちはもう森に住んでいないかもしれませんが、私たちの緑に対する鋭い認識は、私たちの健康を維持する上で重要な役割を果たし続けています。

 

つまり、

古来から植物を食料とした人間にとって必要なのは、食料となる植物を発見する能力と、その鮮度を見分ける能力でした。緑色をより詳しく鮮やかに知覚するという、生存に有利であったその能力を現代の人間もそのまま持っているといえます。

新緑の効果 ― 結論

 

緑色は人間にとって、最も負担なく捉えられる色です。パソコン、スマホやSNSの登場により、目を酷使する時間は昔よりも格段に増えていますが、そんなブルーライトにさらされた疲労ぎみの目にも、緑色は負担がなくリラックスできる色です。

さらに、人間にはとりわけ緑色を細かく捉える力もあります。茶色に近い暗めの緑は、主に腐敗を表すサインであり、それとは反対に黄緑に近い新緑の色は、新鮮さ、若々しさのサインとして捉えられます。

新緑を見ることによって、そのみずみずしく力強い生命力をも感じられ、人は元気になるのかもしれません。

 

今まで、ただぼんやりと外を眺めているだけの無駄な時間と思っていたことにも、実は大きな効用があり、心がそれを無意識に求めていたのかもしれません。

忙しく雑踏のなかを行くときも、室内で作業に没頭するときにも、ふと街路樹を眺めたり、窓の外の新緑の鮮やかさに目を向け、リフレッシュする時間を大事にしたいですね。

 

 

参考文献

・「環境心理学 人間と環境の調和のために」 羽生和紀著 サイエンス社

・「ヒトと緑の空間」 品田穣 東海大学出版会

 

参考サイト

・カプラン夫妻の注意力回復理論について 

What is Kaplan’s Attention Restoration Theory (ART)?

・CNN health 

Why we all need green in our lives - Robert Jimison, 2017

 

書き手・写真 :

喰代彩 (ほおじろあや)

横浜市出身、善了寺のデイサービス「還る家ともに」で介護士として働いていました。現在は小豆島にIターン移住して四年目、二児を育てながら島の暮らしと、善了寺デイサービスの思い出について書いています。(「瀬戸内 島暮らし」、「ばあちゃんたちのいるところ」として連載中)