ばあちゃんたちのいるところ -善了寺デイサービスで過ごした日々-

その2・こだわりばあちゃんの巻。

ミツコさんは古参の利用者さんで、要介護度はたしか最重度。寝ているとき以外は常に人の手を必要とする生活でした。

介護技術が未熟だった私はなかなか入浴介助をミツコさんから任せてもらえず、 経験豊富なスタッフに教わりながら何度もトライしましたが、ミツコさんはなかなか首をたてにふってくれません。当時は、ミツコさんの入浴介助が一人でできるようになったら一人前の介護職になれるような気がして、焦っていた覚えもあります。

このエピソードの後には少し信頼してくれたのか、徐々に入浴介助も任せてくれるようになりました。

 そこでも服を脱ぐ順番、体を洗う順番、タオルの使い方、湯船の温度など、ことこまかに彼女の決まりがあり、すべての手順を覚えてこなすのは至難の技でした。

 それでも、しっかりと手すりを握りながら体を湯船にぷかりと浮かばせ、ピンク色の頬でお湯につかっていたときのミツコさんの嬉しそうな表情はよく覚えています。

しかしそれからほどなくして施設入所が決まり、デイサービスの利用は終了になりました。

あれから、施設でも自分流のこだわりは貫いたのでしょうか。なんでもないときにもそばにいてくれる人はいたのでしょうか。知るすべはありませんが、そうだったらいいな、と思います。

私はミツコさんには十分にできなかったけれど、それ以来、コミュニケーションが上手くいかないときほど、用がなくてもそばにいること、どうでもいいような雑談を多くすることを心がけました。

そうしているうちにぽろりと本音が聞けたり、ふと気持ちを許して態度が柔らかくなることがあったように思います。教科書には書いていない、とても大事なことを教わりました。

それでは、また次回。お読みいただきありがとうございました。

 

 

この漫画の書き手:

喰代彩 (ほおじろあや)

横浜市出身、善了寺のデイサービス「還る家ともに」で介護士として働いていました。

現在は香川県・小豆島にIターン移住して三年目、二児を育てながら島の暮らしと

善了寺デイサービスの思い出について書いています。