江戸時代の集合住宅ともいえる「長屋」。その名の通り、細長い建物に複数の世帯が入居し、井戸やトイレ、ゴミ捨て場などを共有していました。隣近所が近いため、隣人同士の間では、密なコミュニケーションが築かれており、特有の支え合いがあったそうです。昨今、ひとつの住居に複数人で住む「シェアハウス」が人気になっているのも、そんな支え合いを求めてのことなのかもしれません。

生活必需品の貸し借りは当たり前!?

長屋に住む住民同士には、日常的にさまざまなやりとりが存在していました。生活必需品の貸し借りは、その代表例。毎日のように、調味料や米などの貸し借りや食材や料理のおすそ分けが行われていたそうです。また、食べ物だけではなく、土鍋やざるなどの台所用品、皿や鉢などの食器も貸し借りされていました。

江戸時代の庶民は貧しかったという経済的背景

こうした生活必需品を貸し借りする背景には、江戸の人々は貧しく、助け合わないと生活できないという経済状況がありました。お互いに困窮したら協力するのは当然のことだったのです。しかし、戦後の日本では、核家族化が進み、隣近所とのコミュニケーションは減少する傾向にありました。

ところがここ数年、利用者が増加しているシェアハウスでは、昔ながらの支え合いの精神が復活しているようです。一緒に暮らす住民たちの多くは、台所を共有し、食材や調味料の貸し借りや、料理のおすそ分けをしたり、当番制で家事を担当したりしているのだとか。そうした時間を通して“温かいコミュニケーション”が存在することも、シェアハウスの人気のひとつだといわれています。

地域のみんなで子どもを育てる

長屋で暮らす住民たちの支え合いは、生活必需品の貸し借りだけでなく、育児にも及んでいました。子どもが生まれると、住民がみんなで世話を焼き、地域社会で育児を行っていました。そのため、生活費を稼ぐために長屋の外へ働きに出なければいけない母親も、育児に煩わされることもなかったそうです。

ファミリー専用やシングルマザー専用のシェアハウスも

育児における支え合いは、シェアハウスでも行われています。独身者だけでなく子どものいる夫婦が入居しているケースもありますし、最近ではファミリー専用やシングルマザー専用のシェアハウスも。保育園の送り迎えや留守番などを協力して行えるばかりでなく、育児の相談や悩みを共有できるようになっています。まさに長屋と同じ役割を果たしているといえるでしょう。

いざというときも安心!防犯や災害対策も協力

長屋でもシェアハウスでも、住民同士のコミュニケーションや相互扶助体制が整っていると、防犯や災害対策なども協力して行うことができます。江戸時代は、大家が長屋の店子(長屋で部屋を借りている人)を管理して、犯罪が起きると連帯責任を負わされたため、治安が維持されていました。大家と店子は親子同然の関係でもあったため、互いに協力せざるを得なかったのです。また、火事や地震などの大きな災害が起こると、大家だけでは手に負えないため、幕府や有力な藩が炊き出しや仮設住宅の建設などを行いました。住民たちは、そうした援助を受けながら、助け合って危機を乗り越えていたのです。

シェアハウスは安全性も高く安心できる

長屋と同様に、シェアハウスは一人暮らしよりも防犯面での安全性も高く、災害時にも安心だといわれています。日常的に住民同士のコミュニケーションがあるために、いざというときでも気配りや助け合いが生まれやすくなります。

現代の暮らしに復活した支え合いの精神

このように、長屋とシェアハウスは住民同士が支え合って暮らしているという点で、さまざまな共通点があります。シェアハウスによって、江戸時代から存在した古き良き支え合いの精神が、現代の暮らしに復活したといえそうです。これを機会に、今後も大切にしていきたいものです。

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