少しずつ景気が上向いてきたとはいえ、まだまだ厳しい状況の日本経済。もっともっとお金を儲ける方法を考えないと……と考えている人も多いかもしれません。しかし、江戸時代の商人たちの発想は、まるで逆だったことをご存知でしょうか。儲けよりも持続性を大切にした、その発想を学んでみましょう。

江戸時代の理想的な商売は「三方よし」

大阪商人、伊勢商人、近江商人など、数々の豪商を生んできた江戸時代の経済界。豪商ともなると私設の米取引所を開いたり、自前で手形まで発行していたりしたといいますから、その力は相当なものです。さぞかし厳しく利益を追求してきたのだろうと思われがちですが、実は江戸時代の商人の倫理とは「暴利をむさぼらないこと」にありました。

売り手、買い手、世間の三方に利益をもたらす思想

その思想をよく表しているのが、近江商人たちが好んだと言われる「三方よし」という言葉です。この「三方」とは「売り手」「買い手」「世間」の3つを表しており、商売をする際にはただものが売れればいい(売り手よし)だけではなく、品質のよいものを仕入れ、買い手にも喜ばれ、信用を得るようにしなければならない(買い手よし)という精神を表しています。また、商売を続けることで利益が出た場合には、橋や学校など庶民にとって欠かせないものを造ることで、世間に対しても利を還元していこうとする思想(世間よし)も含まれています。

淀屋が建造した「淀屋橋」

江戸時代の豪商であった「淀屋」が建造した「淀屋橋」は、まさにこうした「世間よし」の代表的な例。自分たちが商売で得た利益を、社会のために還元しようとしたものと言えます。

江戸の商人たちはCSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)やSR(social responsibility:社会的責任)などという言葉が生まれるはるか前から、自分たちの利益だけでなく、取引をする相手にとってもよいものであり、さらには社会にとっても意義のあるものであるべきという、健全な商売を意識していたのです。

大火事のときに商人が真っ先にしたことは?

「火事と喧嘩は江戸の華」なんて言葉があるように、江戸の街では頻繁に火事が起こっていました。もちろん、商人にとっても火事は一大事。せっかく仕入れた商品が燃えてしまえば大損になってしまいますし、財産が燃えてしまえばこれまでたくわえてきた富を失う結果にもなりかねません。

商品や財産よりも顧客とのつながりを優先

しかし、江戸の商人たちが一番に守ったのは、商品でも財産でもありませんでした。彼らが火事の際に真っ先にしたのは、なんと顧客台帳を井戸に放り込むこと。商品や財産が燃えてしまったら被害は甚大なはずですが、それよりも顧客とのつながりを大切にするべきという思想があったことがうかがえます。火事がおさまったら井戸の底から台帳を引き上げ、そこに書かれている顧客を一人ひとり回り歩いたのだとか。こうすることで、さらに顧客の信用を集めていたというわけです。

商品はまた仕入れればいいし、財産はまた蓄えればいい。しかし、一度失った顧客を取り戻すのは簡単なことではありません。利益を最重視しない江戸商人の思想は、こうした商売の鉄則を私たちに教えてくれているようでもあります。

顧客や社会の利益を大切に持続するビジネスを

京都の蔵本である北側本家や、お土産物として有名な聖護院八ツ橋など、日本には江戸時代から何百年も続くような老舗が数多くあります。もちろん、商売のうまさもありますが、それ以上に、利益よりも顧客や社会の利益を大切にし、持続性を重視してきたことによるところが大きいと言えるのではないでしょうか。もしかしたら現代日本のビジネスも、こうした江戸時代の商売を参考にするべきところがあるのかもしれません。

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