線香やアロマオイルなど、現代でも広く楽しまれている「香り」。実は、江戸時代にも香文化があり、庶民に広く楽しまれていたことをご存知でしょうか。生活に潤いを与え、健康づくりにも役立つとされている「香道」について、少し学んでみましょう。

日本古来の香文化、その歴史とは?

「香道」とは、華道や茶道などと同じように日本に昔から伝わる芸道のひとつ。言葉の通り、香りを楽しむことを目的としたものです。その歴史をふり返ってみます。

仏教伝来とともに伝わった香

香の歴史は古く、なんと538年に大陸から仏教が伝わった頃にさかのぼるとか(552年とする説もあります)。日本に仏教の教えとともにさまざまな儀礼用の道具が持ち込まれ、そのなかに香も含まれていたとされています。
また、日本書紀には「ひと抱えもある大きな沈水香木が淡路島に漂着し、島人がそれと知らずかまどに入れて薪とともに燃やしたところ、その煙が遠くまで薫り、これを不思議なこととしてこの木を朝廷に献上した」と書かれており、これが香に関する日本最古の記述と言われています。

江戸時代になって庶民に広まった香道

その後、しばらくは貴族や武士など特権階級のものだった香文化が、庶民にも伝わるようになったのは江戸時代のこと。最初は商人のような富裕層に広まり、やがて一般の町民にも楽しまれるようになったのです。
この頃になると、ただ香を焚いて楽しむだけではなく、道具や作法などが整備され、次第に「香道」という芸道として確立されていきました。現代の「香道」でも楽しまれている「組香(香りを聞き分けて楽しむ遊びのこと)」が生まれたのもこの頃と言われています(「香道」では一般的に「かぐ」ではなく「聞く」という表現が使われます)。

貝原益軒も注目した香りのリラックス効果

香は、ただ香りを楽しむだけでなく、気持ちを晴れやかにし、リラックスさせる効果があるとされていました。江戸時代の儒学者である貝原益軒によって書かれた『養生訓』には、以下のような記述があり、心身を健康にする効果が意識されていたことが伺えます。
「静かな部屋に座り、香を焚いて黙座するのは、雅趣を助けて心を養うでしょう。これもまた、養生の一つです。」(『[新釈]養生訓 日本人が伝えてきた予防健康法』貝原益軒著/蓮村誠編訳 PHP研究所 より引用・抜粋)
よくよく考えてみれば、現代でもハーブのようなエッセンシャルオイルを利用したアロマテラピーがあり、心を落ち着かせたり、疲れを和らげたりする効果があるとして注目されています。「香道」はまさに、江戸版のアロマテラピーと呼べるものなのかもしれません。

現代人にも癒しをもたらす「香道」を試してみよう

私たちの健康にさまざまな効果をもたらしてくれる香り。いったい、どのように楽しめばいいのでしょうか。現代の「香道」を例にとってご紹介しましょう。

「香木」は温めて香りを立ち上がらせる

香と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは線香という人もいるのではないでしょうか。しかし、香道ではこうした直接火をつけるタイプの香はあまり用いられません。
その代わりに使われるのが、沈水香木(沈香)や白檀といった香木です。香の焚き方にはさまざまな作法がありますが、純粋に香りを観賞する「聞香」の場合は、火をおこした炭の上に銀葉と呼ばれる雲母の板を乗せ、その上に小さく切った香木を乗せます。こうして間接的に温めることで、煙も起こらず、香りだけを楽しむことができるのです。

知っておきたい「香道」のマナー

「香道」において、楽しみ方にあまり厳密なルールはありません。ただ、香りはとても繊細なもの。参加者が不快な思いをしないよう、いくつかのマナーがあります。

  • 香りは三息で楽しむ

例えば、香席では順番に香炉を回して楽しみますが、ひとりであまり長い間、聞き続けていると、末席まで香りがもたなくなってしまいます。息を深く吸い込み、3回香りを聞く(三息)程度にしておきましょう。

  • 香りのするものは身につけない

香席では、香水や香りの強い化粧品などは身につけないようにしましょう。特に夏場はエチケットのためにデオドラントを使用する人もいますが、これもNGです。また、革の財布やカバンなどもにおいがするため、あまり好ましくないとされています。

癒しの効果で、生活をもっと豊かに

よい香りを楽しむだけでなく、健康づくりにも役立つ「香道」。江戸町民も楽しんでいていた文化を取り入れることで、あなたの生活はもっと楽しく、豊かなものになるかもしれません。本格的な「香道」の席に招かれる機会はあまりないかもしれませんが、まずは自宅で、カジュアルに香を楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか。

参考: