夏の虫除け対策といったら、スプレーをして、虫が入ってこないように窓を閉め冷房をつける……という人が多いのではないでしょうか。しかし、かつて日本では、蚊帳や蚊取り線香を使って虫除けをして、快適に過ごしていました。今回は特に夏の夜、日本ならではの蚊帳を使って、虫除けをしながら涼しく快適に過ごす方法をご紹介します。

蚊帳はいつ誕生した?

1300年以上前に編纂された『播磨国風土記』によると、応神天皇が播磨の国を巡幸した時に「賀野(かや)の里」で、殿(でん)を作って蚊帳を張ったという記録があります。稲作をしている水田地帯には蚊が発生するため、虫除け対策が必要になったのでしょう。これが、蚊帳の始まりと言われています。

奈良時代に入ると、中国から蚊帳作りの女性技術者が渡来し、絹や木綿を使った蚊帳が本格的に作られるようになりました。これは「奈良蚊帳」と呼ばれていたのだとか。そして時を経た室町時代には、近江国の八幡の商人が麻の糸で蚊帳を織るようになり、「八幡蚊帳」や「近江蚊帳」として流通しました。

しかし戦国時代に入っても、麻の蚊帳は“米にして2〜3石分”の貴重品であったため、庶民は「紙帳」という紙で作られたものを使っていました。江戸時代になり、近江八幡の17軒の蚊帳屋が、互いに助け合って商売を行うための組織を作ったことから、庶民の間にも徐々に麻の蚊帳が広まっていったそうです。

江戸時代は、人だけでなく馬まで蚊帳を使っていた!?

こうして蚊帳は、貴族や武士だけでなく、庶民にも使われるようになりました。江戸時代の人々の生活で、蚊帳が重要な役割を果たしていたことは、当時の落語や歌舞伎、浮世絵、俳句などからも知ることができます。

浮世絵に見る「蚊帳の使い方」

美人画で知られる喜多川歌麿の「婦人泊り客之図」では、蚊帳を吊るした寝所で涼む6人の女性たちの姿が描かれています。蚊帳は、部屋の四隅に固定した留め具に掛けて広げ、寝所をすっぽりと覆っています。出入りする時は、座って蚊帳を下から両手で持ち上げて、素早く体を潜らせて、すぐに蚊帳を下ろしていたのだとか。江戸時代には、こうして蚊帳を吊ることで虫除けをするとともに、風通しを良くして涼を取っていたのです。

俳句に見る「蚊帳の普及率」

小林一茶は「月さすや 紙の蚊帳でも おれが家」という句を詠んでおり、紙とはいえ蚊帳を利用するのが日常的であったことが伺えます。ところが、一茶には「馬までも 萌黄の蚊帳に 寝たりけり」という句も。萌黄とは緑色のことですが、「萌黄の蚊帳」は「八幡(近江)蚊帳」の代表格。つまり、馬が人間よりも高価な麻の蚊帳を使っていることもあったようです。

現代は、用途に応じたさまざまな蚊帳が登場

扇風機、そしてエアコンが登場する1960〜70年代から、蚊帳はあまり使われなくなっていましたが、最近は虫除けスプレーやエアコンが苦手な人も出てきて、再び注目が集まっています。蚊帳の種類も増えて、伝統的な部屋を覆うタイプのものから、ベッドのみを覆うタイプ、ワンタッチで開閉ができるタイプなど、用途に応じて選べるようになりました。素材も、ナイロンから、麻やヘンプまでさまざまな種類が用いられています。

ここ数年猛暑が続く日本ですが、風がある日や夜中は、エアコンではなく蚊帳を使うと、自然の風を感じ、涼むことができます。風があまりない時は、蚊帳の中でうちわを使ったり、少し離れたところから扇風機を回したりして、ほど良い風を起こすのも気持ちがいいものです。蚊などの虫だけでなく花粉やほこりなども避けられ、エアコンのように体を冷やし過ぎないため、子どもや高齢者をはじめとして、健康にもよい影響といえるでしょう。

このように、古くから使われている蚊帳は、日本の気候や生活に合っており、現代でも使うメリットはたくさんあります。今年の夏は、そんな蚊帳を使って、日本文化に根差した涼しいスローライフを体験してはいかがでしょうか。

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参考:

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