「身をいれる」という表現があります。「勉強に身をいれる」などのように使われます。この場合、「身」とはどういう意味で使われているでしょうか。

「身」は、意味の広い言葉です。

まずは、肉体としてのからだ。「身体」「全身」を示すことが思い浮かびますね。
そして、「身のため」「身につく」のように、 心と体を包含した自分そのもの。「自分自身」としても馴染みがありますね。

さらに、次のようにも表現されます。

「人の情けが身にしみる」・・・心の深いところに感じること。
「身の程を知る」「身に余る」・・・自分の力量や身分のこと。
「身を立てる」・・・仕事や生計のこと。転じて、立身出世。
「身を削る」「捨て身で」・・・いのちや利益を犠牲にすること。
「身を誤る」「身を持ち崩す」・・・生き方、人生をダメにすること。
「相手の身になる」・・・相手の立場になること。

身の意味するところは、心、力量、身分、仕事、いのち、利益、人生、立場。いろいろありますね。

 

では、最初にあげた「身をいれる」はどういう意味でしょうか。

 

 

心を込める、一生懸命にするという意味ですね。
「身を引き締める」も同様に心という意味で使われています。

 

日本人は「身」という一語に随分たくさんの意味を込めたものだと感心します。

 

国文学者の中西進氏は次のように述べています。

「み(身)」は果実の実と発音が同じです。「からだ」が具体的な肉体を指すのに対し、精神的で象徴的な存在を「み」とよぶのです。「からだ」はそれこそ木の幹が伸びて枝が出るように黙っていても成長しますが、「み」は自らの努力なしには成熟していくことができません。さらに「み」は、努力して経験を積んだ成果として、木の実のように「みのる」ものですから、「からだ」のように、事故や怪我で損なわれることはないのです。
「ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ」中西進 小学館 2003

 

つまり「身」は、私たちの心と体のみではなく、その成長過程や成果までをも含めて「み」であるという解釈をされているわけです。なるほど。だから、いろいろな意味に転じていったんですね。何気なく使っている「身」ひとつとっても、身につけるには、身を入れて考えないといけませんね。

 

参考

小学国語辞典小型版改訂第6版 監修金田一晴彦、金田一秀穂 学研プラス 2020年